合気道の上達の妨げとなるもの
初登場なお 5級になったばかり。勤務先の美容院でもこっそり稽古をしている。
型稽古ってつまりヤラセ?手首掴まれたり、チョップされたりするシュチュエーションってありえないですよね。
悪人が向かってきたとして、片手を取られたり、素手で頭を打たれたりすることはほぼあり得ない。型に意味があるのか不思議に思うのも当然だが、そもそも型は実戦テクニックではない。これを勘違いして稽古すると上達しない。
古武道家の黒田鉄山は語る。
型は一体何を示しているか。それは型の通りの順序と所作で身体を動かそうとするとき、術者の動きが術技立てられたものになるにはどうしたらいいか、その要求を型が示している。 黒田鉄山
出典「月間秘伝」編集部編 「〝型〟の深意 」BAB JAPAN 2023年
同様のことを空手家の中達也も言っている。
形とは『地図』だという。空手という広大な大陸を、形という地図を持ちながら、自分の身体を頼りにその極意を求めて探検する。 中達也
出典「月間秘伝」編集部編 「〝型〟の深意 」BAB JAPAN 2023年
「型」って深い〜。他の武道も型稽古なんですね。
型稽古とは何か?映画「ハイキック・ガール」で空手の達人松村義明のセリフ↓
相手と強さを比べるためではない。人に技を見せるためでもない。ひたすら基本の技を繰り返し、身体の使い方を変えていく。それが形カタの稽古
映画「ハイキック・ガール」
合気会本部道場指導部師範の遠藤征四郎先生は著書でこのように仰っている。
稽古は、繰り返すことによって正しいことを習慣づけ、体に染み込ませて行かなければいけないのに、倒すことばかりに夢中になっているから、力む習慣や悪い癖が体に染み込んでしまう。 遠藤征四郎師範(合気会八段)
出典 遠藤征四郎 「響と結び」 廣済堂 2015年
初心者にとって上達の妨げになることは技を効かせようと稽古することだ。そうすると、投げたり抑えたりすることだけに一生懸命になり、全体の流れが途切れてしまう。倒すことに囚われると、自分が稽古しようとしている形は二の次となる。
なかには少し稽古しただけで上手くできないからと諦め、他のやり方をしようとする人がいるが、それでは型稽古の意味がなくなる。
それに、相手を倒そう、強く投げようと考えて稽古していると、受ける側はダメージを受けないようにしようと、投げられないように身構える人がいても不思議ではない。こうなるとお互い力比べになってしまう。
受けの側も同様で、正面打ちや横面打ちで、相手の頭に当ててやろうと勇んで身体が突っ込んでしまっては、正しい打ち方は出来ない。
効く効かないはともかく、自分の姿勢や動きに集中して、正しい形を繰り返し稽古することを心がけたい。取り・受け互いに良いところを引き出すという気持ちで稽古をすれば、お互い技術が磨けると思う。
今できる、できないにあまり囚われず、正しくやっていくようにしなければならない。正しく行っていくことこそが先決だ。 遠藤征四郎師範(合気会八段)
出典 遠藤征四郎 「響と結び」 廣済堂 2015年
かくいう私も初心者の頃は技を効かすことを目的として力任せに相手を倒していたし、受けのときは「それぐらいじゃ効かないなあ。」と踏ん張っていた。
思い返すと無意味なことをしていたなあと恥ずかしい。しかし、五段になった今でも、無意識に相手を倒そうとして、力任せな印象を与えている点も多々あると思う。だからこそ常に型稽古の目的を見失わないようにしたい。
自分の身体を通して新しい発見や工夫を重ねて、身体操作や技量を向上させるのが本来の形稽古の目的。身体と相談しながらゆっくり力を入れずに楽しんでやることで、色々なことがわかってきます。 中達也
出典「月間秘伝」編集部編 「〝型〟の深意」 BAB JAPAN 2023年 ※形稽古の表記は原文のまま
〝型〟のない武道は存在しない。決まった動作を繰り返す〝型〟だけでなぜ強くなれるのか?中達也や黒田鉄山ほか武道の達人が型について語るこちらの本をおすすめする。
“型”の深意: 戦わずに強くなれる武道の深い秘密 秘伝BOOKSシリーズ
まえがきが秀逸なので紹介する。↓
武種、流派問わず、古の武術が選んだのは「型」でした。
出典「月間秘伝」編集部編 〝型〟の深意 BAB JAPAN 2023年
これは日本人が様式美志向だという意味ではありません。強くなるための手段として、武術流派は例外なく「型」を選択したのです。
現代の感覚で言えば、自由攻防練習、いわゆるスパーリングのようなことをしなければ実戦では通用しない、と考える方も多いことでしょう。しかし、そうではなく、決まった動作を繰り返し行う「型稽古」こそが、強くなるための練習法だったのです。
型稽古は一見、踊りのよう、あるいは見せるためのもののようにも見えます。しかし、現代よりもはるかに、シビアに命がかかっていた時代の事、そんな暇があろうはずがありません。
型稽古は、確かに命がかかるレベルでの、強くなる最有力手段だったのです。
では、なぜ、今の感覚だと、踊りや見せるためのものにしか映らないのか?それは、型の本質が見失われかけているからなのかもしれません。本質が失われているのではなく見失われている、つまり、多くの人が知らないもの、となりつつあるのではないかと思うのです。
だからこそ、多くの武術が強くなるために選択した「型」というもののシステムに、正面から迫りました。柔道、空手、居合・・・、様々な分野、それぞれの視点から、「型」の本質に迫ってみることが、本書の目的です。
読み終えてみれば、なぜ日本人が「型」というものを大切にしてきたのか、その本当の意味がわかるかもしれません。
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